「議会が予算をぎけつする」「不信任けつぎ案を可決する」。
「議決」と「決議」は同じ字を入れ替えただけですが、法令の中では役割がはっきり分かれていました。
結論を先にお伝えすると、「議決」は会議体が決めるという行為や権限、「決議」は決まった内容そのものです。
日本国憲法で数えると、この差がよく見えます。憲法に「議決」は23回出てきますが、「決議」はたった2回、それも第69条の「不信任の決議案」「信任の決議案」だけでした。
現行の法令全体でも「議決」9,837件、「決議」5,022件で、地方自治法は「議決」、会社法は「決議」と、法律によって選ぶ語が分かれています。
この記事では、常用漢字表と、法令の件数・条文をそのまま示しながら整理します。
「議決」と「決議」の違いは?結論から
- 議決(ぎけつ)… 議会や委員会が決めるという行為・権限(例:議会は予算を議決する、議決を経て、議決権)
- 決議(けつぎ)… 会議体が決めた内容そのもの。文書や案の形をとる(例:不信任の決議案、株主総会の決議、決議を届け出る)
見分け方は、動きを指すのか、できあがったものを指すのかです。
「〜を議決する」と動詞で使えるのが「議決」、「〜の決議」と名前が付いて残るのが「決議」と考えると分かりやすくなります。
ここから、その根拠を順に見ていきます。
常用漢字表で見る:「議」と「決」と「票」
国が定めた常用漢字表で、関係する字の読みと例を確かめました。
- 議 … 音:ギ。例:議論,会議,異議
- 決 … 音:ケツ。例:決裂,決意,解決/訓:きめる。例:決める,取り決め/訓:きまる。例:決まる,決まり
- 票 … 音:ヒョウ。例:票決,投票,伝票
- 採 … 音:サイ。例:採集,採用,採光/訓:とる。例:採る
出典:常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)本表/2026年9月25日確認
「議決」も「決議」も、常用漢字表の例そのものには挙がっていません。どちらかが誤りということはなく、2つとも現行の法令で使われている言葉です。
面白いのは「票」の例に挙がっている「票決」で、こちらは現行の法令を検索すると0件でした。常用漢字表に例として載っていることと、法令で使われることは別だと分かります。
「議」の例に並ぶ「会議」「異議」の使われ方は、「講義」と「講議」はどっちが正しい?でも数えています。
法令の数字:「議決」9,837件、「決議」5,022件
次に、現行の法令を全文検索して件数を数えました。
- 議決 … 9,837件(うち議決権が6,834件)
- 決議 … 5,022件
- 表決 … 56件/票決 … 0件
出典:e-Gov法令検索(現行法令の全文検索)/2026年9月25日確認
目を引くのは、「議決」9,837件のうち約7割にあたる6,834件が「議決権」だということです。株主や議員が持つ「決める権利」を指す言葉として、「議決」が使われています。
言い回しで比べる
- 議決権の過半数 … 621件/の議決を経て … 353件/議決を経 … 961件
- 株主総会の決議 … 432件/取締役会の決議 … 234件/決議書 … 75件/決議を行 … 89件
- 議決機関 … 6件/決議機関 … 0件
出典:e-Gov法令検索/2026年9月25日確認
「議決」は「議決を経て」という形で、手続を通ったことを表します。「決議」は「株主総会の決議」「取締役会の決議」のように、どの会議体の決定かを示す名前として使われます。
日本国憲法の使い分け
いちばん分かりやすいのが日本国憲法です。全文で「議決」23回、「決議」2回、「表決」2回でした。
「議決」は国会が決めること(23回)
憲法の「議決」は、国会や議院が決めるという行為に使われています。
両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
日本国憲法 第56条第1項
ほかにも、第59条第2項「参議院でこれと異なつた議決をした法律案」、第67条第2項「衆議院が指名の議決をした後」、第86条「国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない」など、すべて「決める」という動きの側です。第55条と第58条は「出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする」と、必要な多数まで定めています。
「決議」は2回だけ。しかも「決議案」
一方の「決議」は、憲法全体でたった2回。しかも同じ第69条の中に並んでいます。
内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
日本国憲法 第69条
ここでの「決議案」は、可決や否決の対象になる文書としての案です。「議決する」という動きに対して、「決議案」は動かされるものの側にあります。
なお、この条文が定める「総辞職」という言葉については、「退職」と「辞職」の違いは?で取り上げています。
一人ひとりの一票は「表決」
憲法にはもう1つ、「表決」という言葉が2回出てきます。
両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。
日本国憲法 第51条
第57条第2項も「出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない」と定めています。議員一人ひとりが賛否を示す行為が「表決」、議院全体として決まるのが「議決」という関係です。現行の法令全体でも「表決」は56件ありました。
地方自治法は「議決」、会社法は「決議」
法律ごとに、選ぶ語がはっきり分かれています。
- 日本国憲法 … 議決23/決議2
- 地方自治法 … 議決167/決議20
- 会社法 … 議決381/決議480
- 労働基準法 … 議決3/決議32
出典:e-Gov法令検索で各法令の全文を取得して計数/2026年9月25日確認
地方自治法:議会は「議決しなければならない」
普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。
一 条例を設け又は改廃すること。
二 予算を定めること。
三 決算を認定すること。…地方自治法 第96条第1項
第112条第1項も「議会の議決すべき事件につき、議会に議案を提出することができる」、第116条第2項も「議長は、議員として議決に加わる権利を有しない」と、動きと権利の両方で「議決」を使っています。
会社法:株主総会の「決議」は、議決権で行う
会社法では、決まったもののほうが「決議」、決めるための権利が「議決権」です。第309条第1項は、1つの文で両方を使っています。
株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
会社法 第309条第1項
第308条第1項は「株式一株につき一個の議決権を有する」と、議決権の数を定めています。議決権を使って行った結果が、決議という関係です。
法律ごとに使う語が片方に寄る例は、「別紙」と「別添」の違いは?でも確かめています。
1つの文で書き分けている条文:労働基準法第38条の4
両方の関係がもっともはっきり出ているのが、労働基準法(昭和22年法律第49号)第38条の4第1項です。
…当該委員会がその委員の五分の四以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において…
労働基準法 第38条の4第1項
「五分の四以上の多数による議決により」「決議をし」「当該決議を行政官庁に届け出た」。
議決は決めるやり方、決議は決まった中身で、しかも役所に届け出られる。1つの文の中で、動きと成果物がきれいに分かれています。
迷ったときの使い分け
決める行為・権利なら「議決」
「予算を議決する」「議決を経て」「議決権」のように、決めるという動きや、そのための権利を言うなら「議決」です。動詞として「議決する」と使えます。
決まった内容・文書なら「決議」
「不信任の決議案」「株主総会の決議」「決議を届け出る」のように、決まったものに名前を付けて扱うなら「決議」です。
場面ごとの例
- 議会が条例や予算を決める … 議決する
- 株主が1株につき1つ持つ権利 … 議決権
- 国会の承認を通す … 議決を経る
- 内閣不信任のための案 … 不信任決議案
- 株主総会で決まった内容 … 株主総会の決議
- 議員一人ひとりが賛否を示す … 表決
よくある質問
「議決」と「決議」は読み方が違いますか
「議決」は「ぎけつ」、「決議」は「けつぎ」です。常用漢字表で、「議」の音は「ギ」、「決」の音は「ケツ」とされています。字を入れ替えただけですが、法令では役割が分かれています。
「決議」に法的な力はありますか
条文から言えるのは、決議が制度に組み込まれている場面があるということです。憲法第69条の不信任の決議案は、可決されれば内閣が総辞職か解散かを選ぶことになります。労働基準法第38条の4の決議は、行政官庁への届出の対象です。会社法の株主総会の決議も、会社の意思決定として条文に定められています。
「議決権」と「表決権」はどちらですか
法令では「議決権」が6,834件と圧倒的です。「表決」という語自体は56件あり、憲法第51条・第57条第2項のように議員一人ひとりの賛否を指す場面で使われています。
「票決」という言葉はありますか
常用漢字表には「票」の例として「票決,投票,伝票」が挙がっています。ただし現行の法令を検索すると「票決」は0件でした。法令で使うなら「議決」「表決」のどちらかになります。
マンションの管理組合ではどちらを使いますか
条文の使い方にならうなら、総会で決まった内容を指すときは「決議」、決めるための権利は「議決権」です。会社法第309条も、決まったものを「決議」、その行使する権利を「議決権」と書き分けています。
法令の言葉が法律ごとに分かれるのはよくあることですか
よくあります。たとえば「措置」と「処置」は151,259件対1,014件で、法令の題名に入るものは1,355本対1本でした。詳しくは「措置」と「処置」の違いは?で数えています。
まとめ
「議決」は会議体が決めるという行為や権利、「決議」は決まった内容そのものです。
日本国憲法は「議決」を23回使い、「決議」は第69条の「不信任の決議案」「信任の決議案」の2回だけでした。議員一人ひとりの賛否には「表決」を使っています。
現行の法令では「議決」9,837件(うち議決権6,834件)、「決議」5,022件。地方自治法は「議会は…議決しなければならない」と書き、会社法は「株主総会の決議は…議決権の過半数をもって行う」と書きます。労働基準法第38条の4は、1つの文の中で「議決により…決議をし」と使い分けていました。
決める動きなら「議決」、決まったものなら「決議」と覚えておけば、迷わずに書き分けられます。
