「この商品のかかく」「この商品のねだん」。
「価格」と「値段」は、どちらもものにいくら払うかを表す言葉ですが、書くときにどちらを選べばよいのか迷います。
結論を先にお伝えすると、「価格」はものの値打ちを金額で示した改まった言い方、「値段」は売り買いの場面で使う日常の言い方です。
法令を見ると、差は極端でした。現行の法令で「価格」は6,075件、「値段」はわずか7件。しかもその7件はすべて「売買値段」「帳入値段」という金融や先物の専門用語で、日常語としての「値段」は1件も出てきません。
この記事では、常用漢字表と、法令の件数・条文をそのまま示しながら、「料金」「代金」「価額」との違いもあわせて整理します。
「価格」と「値段」の違いは?結論から
- 価格(かかく)… ものやサービスの値打ちを金額で示したもの。公の文書や取引の条件を書く場面で使う(例:販売価格、価格その他の取引条件)
- 値段(ねだん)… 売り買いの場面で使う日常の言い方(例:値段をつける、値段が高い)
意味はほぼ重なります。見分け方は場面で、改まった文書なら「価格」、話し言葉や買い物の場面なら「値段」と考えると分かりやすくなります。
ここから、その根拠を順に見ていきます。
常用漢字表で見る:「価」の例に「価格」、「値」の例に「値段」
国が定めた常用漢字表で、関係する字の読みと例を確かめました。
- 価 … 音:カ。例:価値,価格,評価/訓:あたい。例:価
- 値 … 音:チ。例:価値,数値,絶対値/訓:ね。例:値,値段/訓:あたい。例:値,値する
- 段 … 音:ダン。例:段落,階段,手段
- 料 … 音:リョウ。例:料金,料理,材料
- 額 … 音:ガク。例:額縁,金額,前額部/訓:ひたい。例:額
出典:常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)本表/2026年10月11日確認
「価格」も「値段」も、どちらも常用漢字表の例に挙がっています。どちらかが誤りということはありません。
ただし読み方には違いがあります。「価格」は音読みだけでできた言葉、「値段」は訓読みの「ね」と音読みの「ダン」を組み合わせた言葉です。
常用漢字表の例に両方とも載っている組み合わせは、「措置」と「処置」の違いは?にもあります。
法令の数字:「価格」6,075件、「値段」7件
次に、現行の法令を全文検索して件数を数えました。お金を表す言葉をまとめて並べます。
- 金額 … 45,126件/価額 … 9,884件/価格 … 6,075件
- 料金 … 3,784件/時価 … 1,710件/代金 … 1,420件
- 単価 … 417件/販売価格 … 218件
- 値段 … 7件
出典:e-Gov法令検索(現行法令の全文検索)/2026年10月11日確認
「価格」は「値段」の約870倍です。法令がお金のことを書くときに「値段」を選ぶことは、ほとんどありません。
なお「定価」も検索すると396件出ますが、中身を見ると「予定価格」「約定価格」「評定価額」のように、別の言葉の一部として数えられたものがほとんどでした。数えるときは、言葉の切れ目まで確かめる必要があります。
「値段」7件の中身:全部が専門用語だった
では、その7件はどこに出てくるのか。全部取り出して確かめました。
- 売買値段 … 6件。放送法施行規則3件、航空法施行規則1件、租税特別措置法施行令1件、対内直接投資等に関する政令1件
- 帳入値段 … 1件。商品先物取引法施行規則
出典:e-Gov法令検索で「値段」を全件取得/2026年10月11日確認
たとえば放送法施行規則には、認可金融商品取引業協会の規則により「店頭売買につき、売買値段を発表するものとして登録された株式」という書き方が出てきます。商品先物取引法施行規則の「帳入値段」も、先物取引で使う決まった用語です。
どれも「値段」という語が単独で使われているのではなく、決まった専門用語の一部でした。少ないほうの語が特定の複合語に集中する形は、「療養」と「静養」の違いは?でも見られます(「静養」56件のうち52件が「静養室」)。
「価格」は取引の条件として書かれる
一方の「価格」は、取引の条件を表す言葉として条文に出てきます。不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)第5条第2号は、誇大な表示を禁じる規定です。
商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの…よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
不当景品類及び不当表示防止法 第5条第2号
「価格その他の取引条件」。価格は、品質や規格と並ぶ取引の条件の1つとして置かれています。この法律に「値段」は0回です。
「料金」はサービスに払うお金
同じお金でも、サービスを受けることへの支払いは「料金」です。水道法(昭和32年法律第177号)第14条は、水道事業者が定める供給規程について、こう書き出しています。
水道事業者は、料金、給水装置工事の費用の負担区分その他の供給条件について、供給規程を定めなければならない。
水道法 第14条第1項
同条第2項第1号は「料金が、能率的な経営の下における適正な原価に照らし、健全な経営を確保することができる公正妥当なものであること」と定めています。この法律に「料金」は26回出てきますが、「価格」は0回でした。水道という役務に払うお金は、価格ではなく料金だということです。
「代金」は買主が払うお金
売買の場面では「代金」が出てきます。民法(明治29年法律第89号)第555条は、売買そのものを定義しています。
(売買)
第五百五十五条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。民法 第555条
買主が実際に払うお金が「代金」です。民法には「代金」が33回出てきますが、「値段」も「料金」も0回でした。
「価額」と「価格」も法令では分かれる
見落としやすいのが「価額」です。法令には9,884件あり、「価格」6,075件より多く使われています。民法でも「価額」65回に対し「価格」は18回でした。
民法第1043条は、1つの条文の中で両方を使っています。
(遺留分を算定するための財産の価額)
第千四十三条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。民法 第1043条
第1項は計算に使う金額としての「価額」、第2項は鑑定人が評価して決める値打ちとしての「価格」。同じ条文の中で役割が分かれています。
法律ごとに、また条文ごとに使う語が分かれる例は、「議決」と「決議」の違いは?でも数えています。
「時価」はその時どきの値打ち
もう1つ、法令には「時価」が1,710件あります。相続税法(昭和25年法律第73号)第22条は、見出しが「評価の原則」で、3つの言葉を1つの文に並べています。
この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。
相続税法 第22条
計算に用いる金額が「価額」、その金額を決めるもとになるその時点の値打ちが「時価」。いつの時点で見るかが、言葉に織り込まれています。この条文に出てくる「現況」という語については、「現状」と「現況」の違いは?で数えています。
迷ったときの使い分け
改まった文書なら「価格」
契約書、申請書、商品の表示など、公に出す文書では「価格」です。法令も「販売価格」「価格その他の取引条件」と書きます。
話し言葉や買い物の場面なら「値段」
「値段が高い」「値段をつける」のように、日常の会話では「値段」が自然です。誤りではありませんが、法令にはほとんど出てきません。
場面ごとの例
- 商品に付けて表示するお金 … 販売価格
- 買い物の場面で言うお金 … 値段が高い
- 水道や電気などサービスへの支払い … 料金
- 買主が売主に払うお金 … 代金
- 相続の計算に使う金額 … 財産の価額
- ただで渡すこと … 無償
よくある質問
「値段」は書き言葉で使ってはいけませんか
いけないということはありません。常用漢字表にも「値」の訓の例として「値段」が挙がっています。ただし法令では7件しかなく、しかもすべて「売買値段」「帳入値段」という専門用語でした。改まった文書では「価格」のほうが選ばれています。
「価格」と「価額」はどう違いますか
法令では「価額」9,884件、「価格」6,075件で、価額のほうが多く使われています。民法第1043条は、計算に使う金額を「価額」、鑑定人が評価して定めるものを「価格」と書き分けていました。
「料金」と「価格」はどう違いますか
条文の使い方を見ると、サービスを受けることへの支払いが「料金」です。水道法は「料金」を26回使い、「価格」は0回でした。ものを買うときの表示は「価格」が使われます。
「代金」と「価格」はどう違いますか
「価格」はものに付いた値打ち、「代金」は買主が実際に払うお金です。民法第555条は、売買を「その代金を支払うことを約する」と定義しています。
「価格」と「値段」は読み方が違いますか
「価格」は「かかく」、「値段」は「ねだん」です。常用漢字表で、「価」の音は「カ」、「格」は「カク」、「値」の訓は「ね」、「段」の音は「ダン」とされています。
法令にほとんど出てこない言葉は間違いですか
いいえ。法令は公の文書なので、日常語よりも改まった語を選ぶ傾向があるだけです。件数は「どちらが公の文書になじむか」の目安になります。
まとめ
「価格」はものの値打ちを金額で示した改まった言い方、「値段」は売り買いの場面で使う日常の言い方です。
常用漢字表では「価」の例に「価格」、「値」の例に「値段」が挙がっていて、どちらも正しい言葉です。
ただし法令では「価格」6,075件に対して「値段」は7件だけ。しかもその7件は、すべて「売買値段」「帳入値段」という専門用語でした。お金を表す語は場面で分かれていて、サービスへの支払いは水道法の「料金」、買主が払うお金は民法の「代金」、相続の計算に使う金額は「価額」です。
改まった文書なら「価格」、話し言葉なら「値段」と覚えておけば、迷わずに書き分けられます。
