片目をつぶる合図を書こうとして、「ウインク」と「ウィンク」のどちらにするか迷ったことはないでしょうか。
結論を先にお伝えすると、意味に違いはなく、どちらも間違いではありません。ただし公の記録では、はっきり一方に寄っています。
国会の議事録を1947年から2026年7月まで調べると、片目をつぶる意味で使われた「ウインク」は19回。同じ意味で「ウィンク」と書かれた発言は、73年間で1件もありませんでした。小さい「ィ」が使われていたのは、団体名などの固有名詞だけです。
この記事では、内閣告示の定めを要点だけ確かめたうえで、国会会議録と法令を実際に数えた結果を示します。
「ウインク」と「ウィンク」の違いは?結論から
- ウインク … 内閣告示の第1表の範囲で書いた形。公の記録ではこちらが使われる
- ウィンク … 内閣告示の第2表にある「ウィ」を使った形。原音に近く書きたいときの書き方。告示は地名・人名でこの形を使う慣用が強いとしている
意味は同じで、どちらを書いても誤りではありません。見分け方はその語が日本語になじんでいるかどうかで、なじんだ言葉ほど「ウイ」が選ばれます。
ここから、その根拠を順に見ていきます。
内閣告示が決めていること(要点だけ)
外来語の書き方は、内閣告示「外来語の表記」(平成3年6月28日内閣告示第2号)が目安を示しています。仮名を第1表と第2表に分け、第2表は「原音や原つづりになるべく近く書き表そうとする場合に用いる仮名」としています。
2 「ウィ」「ウェ」「ウォ」は,外来音ウィ,ウェ,ウォに対応する仮名である。
注1 一般的には,「ウイ」「ウエ」「ウオ」と書くことができる。
注2 「ウ」を省いて書く慣用のある場合は,それによる。〔例〕 サンドイッチ スイッチ スイートピー
注3 地名・人名の場合は,「ウィ」「ウェ」「ウォ」と書く慣用が強い。
出典:文化庁「外来語の表記」留意事項その2(細則的な事項)Ⅱ/2026年10月13日確認
つまり「ウィンク」も「ウインク」も告示の中に収まっています。片方を誤りとする決まりはありません。この仕組みは「ウエディング」と「ウェディング」はどっちが正しい?でくわしく扱いました。
付録の用例集に「ウインク」も「ウィンク」も載っていない
告示には付録として用例集が付いています。その【ウ】の項を全部取り出すと、載っているのは次の5語だけでした。
- ウイークデー
- ウィーン(地)
- ウイスキー/ウィスキー(両方の形が併記されている)
- ウイット
- ウィルソン(人)
出典:文化庁「外来語の表記」付録(用例集)/2026年10月13日に全文を取得して確認
「ウインク」も「ウィンク」も載っていません。告示はこの語について何も決めていない、ということです。
そのうえで、この5語にははっきりした傾向があります。普通の言葉(ウイークデー・ウイット)は「ウイ」、地名・人名(ウィーン・ウィルソン)は「ウィ」。注3のとおりです。【タ】の項にある「ダーウィン(人)」も同じでした。
国会の議事録で「ウインク」を全部数えた
告示が決めていないなら、実際にどちらが使われてきたかを見るしかありません。国立国会図書館の国会会議録検索を使い、1947年から2026年7月までの発言を調べました。
検索は小さい「ィ」と大きい「イ」を区別しない
ここに落とし穴があります。この検索は「ウインク」で引いても「ウィンク」で引いても、同じ74件の発言が返ってきます。件数だけを見ても、どちらが書かれていたのかは分かりません。
そこで74発言すべての本文を取り出し、字面をひとつずつ数え直しました。
- 「ウインク」(大きいイ) … 33回(23の発言)
- 「ウィンク」(小さいィ) … 11回(11の発言)
出典:国会会議録検索システム 発言検索API(国立国会図書館)/2026年10月13日に74発言の全文を取得して集計
この33回と11回には、別の言葉が混ざっていた
中身を1件ずつ見ると、どちらの数にも「ウインク」とは関係のない言葉が入っていました。
「ウインクラー法」は石炭をガスにする方法
33回のうち12回は「ウインクラー法」「ウインクラ法」「ウインクラー炉」「ウインクラー炭」でした。石炭をガスにする工業の方法(Winkler法)の名前で、肥料工場の話に出てきます。片目をつぶる話ではありません。
地名と人名も1回ずつ
さらに、イギリスの地名として出てくる「ウインクリスピース」が1回、オランダの研究者の名前として出てくる「ハウインク」が1回ありました。
「ウィンク」11回のうち9回は団体の名前
小さい「ィ」の11回も同じでした。9回は「NPO法人ウィンク」という団体名で、母子家庭の支援団体として2003年から2010年の法務委員会・厚生労働委員会などに出てきます。残る2回は「スウィンク指令」「スウィンクス」で、戦後の占領政策を決めた米国の委員会(SWNCC)の読みの一部でした。
残ったのは「ウインク19回・ウィンク0回」
- 字面の合計 … ウインク33回/ウィンク11回
- 別の言葉の一部 … ウインク側14回(ウインクラー12・ウインクリスピース1・ハウインク1)/ウィンク側11回(NPO法人ウィンク9・スウィンク2)
- 片目をつぶる意味で残ったもの … ウインク19回(13の発言)/ウィンク0回
件数をそのまま使うと「33対11」ですが、中身を確かめると「19対0」でした。少ないほうの語は全部取り出して中身を見ないと、数を読み違えます。この確かめ方は「推測」と「推察」の違いは?でも使いました。
1953年から2026年まで、ずっと「ウインク」だった
残った19回がいつのものかを並べると、70年以上にわたって途切れていません。
いちばん古い例は1953年の「ウインク予算」
1953年7月14日の衆議院予算委員会で、今澄勇議員が予算案をこう批評しています。
「これをやぶにらみ予算であり、ウインク予算であつて、何らの信念のない、基礎的性格と責任において組まれてやろうとする予算案でない」
出典:第16回国会 衆議院予算委員会 第23号(1953年7月14日)今澄勇議員の発言/2026年10月13日に本文を取得して確認
いちばん新しい例は2026年
2026年7月3日の参議院沖縄・北方問題及び地方に関する特別委員会でも、参考人の発言に「ウインクしながら、アメリカ政府よりもねみたいな感じで」という形で出てきます。
73年間、小さい「ィ」で書かれたことがない
この間の19回は、1953年のものも2026年のものもすべて大きい「イ」でした。1965年の「ちょっとウインクしたというのですか」、1999年の「お互いにウインクするだけで」、2019年の「何かウインクとかあったらいいんですけど」もそうです。片目をつぶる意味で「ウィンク」と書かれた発言は、1件もありません。
1967年の「ウインク信号」——青の点滅のこと
19回の中に、いまはほとんど聞かない使い方がありました。信号機の青の点滅を「ウインク」と呼んでいたのです。1967年の衆議院交通安全対策特別委員会に集まっています。
塚本三郎議員:「もう一つ、関西のほうにおきましては、信号が変わる場合にウインクの青の点滅がなされておりますが、これを来年の七月から廃止するとかいうことを新聞でちょっと見たわけでございます」
同:「何か八割は関西においてはウインクを残してほしいという意見が強いということを新聞紙上でも見たわけでございます」
出典:第57回国会 衆議院交通安全対策特別委員会 第2号(1967年12月14日)/2026年10月13日に本文を取得して確認
その1か月前には、太田一夫議員が同じ委員会でこう説明しています。
「それはウインク信号、いわゆる緑の点滅信号方式というものをなくされてもいい」
出典:第56回国会 衆議院交通安全対策特別委員会 第5号(1967年11月10日)/2026年10月13日に本文を取得して確認
点滅する光を「目くばせ」に見立てた言い方です。1967年の時点で「ウインク」はすでに比喩として通じる日常語だったことが分かります。
議事録の「ウインク」は、ほとんどが「口に出さない合意」の比喩
残った19回を読み通すと、もうひとつ分かることがありました。目の動きそのものを指した例は少なく、大半が「言葉にしない了解」のたとえとして使われています。
独占禁止法の議論でくり返し出てくる
橋口收 公正取引委員会委員長(1980年4月1日 衆議院物価問題等に関する特別委員会):「わずか二社でよろしいわけでございますから、それこそせき払いをすれば、あるいはウインクする程度で価格引き上げの水準も大体決まるというような業種でございますから」
梶原敬義議員(1999年8月5日 参議院経済・産業委員会):「そういう独占企業が集約されますとお互いにウインクするだけでもう操業の規制をやってみたりあるいは販売価格を決めてみたり」
出典:国会会議録検索システム/2026年10月13日に本文を取得して確認
どちらも証拠に残らない意思の通じ合いを指しています。価格をめぐる言葉の使い分けは「価格」と「値段」の違いは?でも扱いました。
外交や雇用の場面でも同じ使い方
1965年11月1日の衆議院の特別委員会では、石橋政嗣議員が「黙示の承認」という言い方をとらえて「ちょっとウインクしたというのですか」と問い返しています。1978年6月13日の参議院商工委員会には「オーケーは出さんにしましても、ウインクするぐらいの外交折衝をして」という発言があり、1966年10月11日の参議院運輸委員会では、職業安定所でボスが合図して高い仕事へ回す実態が「ウインク雇用」と呼ばれています。
動作そのものを指した例
1998年5月21日の衆議院本会議には、総理の振る舞いを評して「他国の首脳に片目をつぶってウインクをしてみせたり」という発言があります。「片目をつぶって」と説明を添えているのが特徴で、この語がもともと動作の名前であることを裏から示しています。
法令でも「ウイ」と「ウィ」は役割が分かれている
現行の法令でも同じ線が引かれていました。e-Gov 法令検索で件数を数えました。
- ウイルス … 951件/ウィルス … 0件
- ウイスキー … 68件/ウィスキー … 0件
- ウイット … 1件(関税定率法)
- ウィーン … 17件(地名)
- ウエディング … 0件/ウェディング … 0件
- ウインク … 1件(後述)/ウィンク … 0件
出典:e-Gov 法令検索/2026年10月13日に取得
普通の言葉は小さい「ィ」が0件です。告示の用例集では「ウイスキー/ウィスキー」と両方が併記されていますが、法令は68件すべて「ウイスキー」でした。
いっぽう地名の「ウィーン」は17件あります。在外公館の名称を定める法律や旅費の規程などに出てきます。注3の「地名・人名は『ウィ』」が、条文でもそのとおりになっています。「ウイルス」の件は「ウイルス」と「ウィルス」はどっちが正しい?で数えました。
法令の「ウインク」1件も、やはり別の言葉だった
法令で「ウインク」が引っかかるのは1件だけですが、中身は水質調査作業規程準則の別表で、溶存酸素の測り方の説明の末尾に「(ウインクラー法)」と書かれているものでした。国会会議録と同じ落とし穴です。片目をつぶる意味では、法令にも0件ということになります。
「ウインカー」も調べたら同じだった
同じ「ウイン」で始まる言葉として、車の方向指示器も調べました。国会会議録で「ウインカー」を含む発言は15件。本文の字面を数えると、「ウインカー」17回に対して「ウィンカー」は0回でした(1964年から2025年まで)。
日本語になじんだ言葉ほど、大きい「イ」で書かれる。「ウインク」だけの特徴ではなく、この系統の言葉に共通した傾向です。
では、自分はどちらを書けばよいか
公の文書・仕事の文書なら「ウインク」
議事録でも法令でも、一般の語は大きい「イ」でした。迷ったら「ウインク」を選べば、公の記録の書き方に合います。
固有名詞はそのまま写す
団体名・店名・作品名は、相手が決めた表記をそのまま書きます。議事録でも「NPO法人ウィンク」は小さい「ィ」のままでした。告示の注3が地名・人名を別扱いにしているのと同じ考え方です。
雰囲気で選んでよい場面もある
小説や広告など、読んだときの印象を作りたい文章では「ウィンク」を選んでも構いません。告示は第2表を「原音や原つづりになるべく近く書き表そうとする場合」に使う仮名としていて、禁じてはいないからです。
なお、同じ告示の注2は「『ウ』を省いて書く慣用のある場合は,それによる」として「サンドイッチ」「スイッチ」を挙げています。「ウインク」はこれとは別で、「ウ」が落ちる語ではありません。注2にあたる語の事情は「サンドイッチ」と「サンドウィッチ」はどっちが正しい?で扱いました。
国会会議録を年代で区切って数えると、語の勢いが入れ替わっている組み合わせもあります。1940年代に「先祖」の2倍使われていた「祖先」が、2010年代には9分の1まで落ちたことは、「先祖」と「祖先」の違いは?で数えました。
件数を数えるときに全件を取り出して中身を確かめる手順は、ほかの組でも使いました。「排水溝」62文と「排水口」133文の計195文を1件ずつ見て、どちらも別の語の一部ではないことを確かめた記録が「排水溝」と「排水口」の違いは?です。
よくある質問
「ウィンク」と書いたら間違いですか
間違いではありません。内閣告示は「ウィ」を第2表の仮名として認めていて、どちらを選ぶかは書き手に任されています。ただし国会の議事録では、片目をつぶる意味で「ウィンク」と書かれた発言が73年間で0件でした。
どちらが古い書き方ですか
議事録で確かめられる範囲では、1953年の時点ですでに「ウインク」です。そして2026年の発言も「ウインク」でした。どちらかが古いという関係ではなく、公の記録ではずっと「ウインク」が使われ続けています。
発音は違うのですか
国が定めた資料に発音の違いは書かれていません。内閣告示が示しているのは書き表し方の目安であって、読み方の区別ではありません。「ウィ」は原音に近く書きたいときの仮名、と説明されているだけです。
辞書ではどちらが見出しになっていますか
辞書によって異なります。この記事では辞書ではなく、内閣告示・国会会議録・法令という公の資料だけを数えました。どれも「ウインク」に寄っているという結果です。
「ウインクラー法」とは何ですか
石炭を粉にしてガスにする工業の方法(Winkler法)と、水の溶存酸素を測る方法の名前です。どちらも人名から来ています。「ウインク」で検索するとこれが混ざるので、件数を数えるときは中身を確かめる必要があります。
「ウィンク」が固有名詞に多いのはなぜですか
内閣告示が「地名・人名の場合は,『ウィ』『ウェ』『ウォ』と書く慣用が強い」としているとおり、名前は原音に近く書く習わしがあるためです。団体名もこれに近い扱いになっていると見られます。
ビジネスメールではどちらを使えばよいですか
「ウインク」をおすすめします。公の文書の書き方に合いますし、相手に引っかかりを与えません。ただし相手の社名や商品名に「ウィンク」が入っているときは、そちらをそのまま書きます。
まとめ
「ウインク」と「ウィンク」は意味が同じで、どちらも間違いではありません。内閣告示「外来語の表記」は「ウィ」を第2表の仮名とし、「一般的には『ウイ』と書くことができる」としています。付録の用例集には、どちらの形も載っていません。
では実際にどう書かれてきたのか。国会会議録の74発言を全文取り出して字面を数えると、「ウインク」33回・「ウィンク」11回。ただし中身を確かめると、ウインク側の14回は「ウインクラー法」などの別の言葉、ウィンク側は11回すべてが「NPO法人ウィンク」か「スウィンク指令」でした。片目をつぶる意味で残ったのは、ウインク19回に対してウィンクは0回です。
法令でも同じで、ウイルス951件・ウイスキー68件に対して小さい「ィ」の形は0件。いっぽう地名の「ウィーン」は17件ありました。「ウインカー」も15発言で17回対0回です。
普通の言葉は「ウイ」、名前は「ウィ」。この線を覚えておけば、どちらを書くか迷わなくなります。

