「無償」と「無料」の違いは?民法は「無償」だけ、職業安定法は「無料」だけを使っていた

正しい読み方、つづり方

「むしょうで譲り受ける」「むりょうで使える」。
「無償」と「無料」は、どちらもお金がかからないことを言う言葉ですが、書くときにどちらを選べばよいのか迷います。

結論を先にお伝えすると、「無償」は見返りを受け取らないこと、「無料」は料金を取らないことです。

法令を読むと、この違いがはっきり出ていました。日本国憲法は第26条第2項で「義務教育は、これを無償とする」と書き、「無料」とは書いていません。民法も「無償」を13回使う一方、「無料」も「有料」も1回も使いません。反対に職業安定法は「無料」49回・「有料」52回で、「無償」「有償」は0回です。
しかも職業安定法は、第4条で「無料の職業紹介」が何かを定義しています。

この記事では、常用漢字表と、法令の件数・条文をそのまま示しながら整理します。

「無償」と「無料」の違いは?結論から

  • 無償(むしょう)… 見返りを受け取らないこと。相手から何も返してもらわずに物や権利を渡す場面に使う(例:無償で与える、無償譲渡、無償貸付)
  • 無料(むりょう)… 料金を取らないこと。サービスや手続に値段を付けない場面に使う(例:無料で証明を行う、無料職業紹介、無料低額宿泊所)

見分け方は、相手から受け取らないのが「見返り」か「料金」かです。
ただで物をあげるのが「無償」、ただでサービスを提供するのが「無料」と考えると分かりやすくなります。

ここから、その根拠を順に見ていきます。

常用漢字表で見る:「償」はつぐなう、「料」は料金

国が定めた常用漢字表で、関係する字の読みと例を確かめました。

  • 無 … 音:ム。例:無名,無理,皆無/音:ブ。例:無事,無礼,無愛想/訓:ない。例:無い,無くす,無くなる
  • 償 … 音:ショウ。例:償金,弁償,代償/訓:つぐなう。例:償う,償い
  • 料 … 音:リョウ。例:料金,料理,材料
  • 価 … 音:カ。例:価値,価格,評価/訓:あたい。例:価

出典:常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)本表/2026年10月6日確認

「償」の例は「償金,弁償,代償」で、訓は「つぐなう」。相手に返す、埋め合わせるという向きの字です。
「料」の例には「料金」がそのまま挙がっています。値段のほうを向いた字です。この違いが、そのまま法令での使い分けに出ています。

法令の数字:無償1,295件、無料460件

次に、現行の法令を全文検索して件数を数えました。対になる言葉も一緒に数えています。

  • 無償 … 1,295件/有償 … 725件
  • 無料 … 460件/有料 … 721件
  • 無償で … 480件/無償貸付 … 181件/無償譲渡 … 53件/有償又は無償 … 22件
  • 無料で … 79件/有料職業紹介 … 132件/無料職業紹介 … 21件/無料低額 … 87件

出典:e-Gov法令検索(現行法令の全文検索)/2026年10月6日確認

どちらも使われていますが、対になる相手が違います。「無償」は「有償」と、「無料」は「有料」と組みます。「有償又は無償」という言い方は22件あり、2つで1組の用語として扱われていることが分かります。

憲法と民法が使うのは「無償」

日本国憲法が使うのは「無償」

いちばん有名な例は憲法です。日本国憲法を全文で数えると、「無償」が1回、「無料」「有償」「有料」は0回でした。その1回がここです。

すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

日本国憲法 第26条第2項

「義務教育は無料とする」ではありません。教科書についても、義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律という名前の法律があります。

民法の贈与は「無償で与える」

法律ごとに見ると、使い分けはもっとはっきりします。民法(明治29年法律第89号)を全文で数えると、「無償」13回・「有償」4回に対し、「無料」と「有料」は0回でした。

(贈与)
第五百四十九条 贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

民法 第549条

贈与の定義そのものが「無償で与える」です。見返りを受け取らずに財産を渡すのが贈与だ、と条文が述べています。

使用貸借も「無償」

(使用貸借)
第五百九十三条 使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。

民法 第593条

ただで物を借りる契約が使用貸借で、ここでも「無償」です。家賃を払って借りれば賃貸借になります。対価をやりとりするかどうかで契約の種類が変わるので、民法は「無償」「有償」で区別しています。第559条の見出しも「有償契約への準用」です。
「使用」と「利用」の使い分けについては、「利用」と「使用」の違いは?で数えています。

「無償」が出てくる1,295件の内訳

「無償」を全部取り出すと、461本の法令に出てきました。内訳は法律569・省令384・政令327で、法律そのものに多いのが特徴です。言い回しでは「国有財産の無償使用」83件、「無償貸付」、会社法の「株式無償割当て」などが並びます。

職業安定法は「無料」だけを使い、しかも定義している

反対に、職業安定法(昭和22年法律第141号)は「無料」49回・「有料」52回で、「無償」「有償」は0回です。そして第4条が、この言葉の意味を定めています。

この法律において「無料の職業紹介」とは、職業紹介に関し、いかなる名義でも、その手数料又は報酬を受けないで行う職業紹介をいう。この法律において「有料の職業紹介」とは、無料の職業紹介以外の職業紹介をいう。

職業安定法 第4条

「無料」が、手数料や報酬を受け取らないことだと法律に書かれているわけです。「有料」のほうは「無料以外」と定義されていて、2つで全体を分け合う形になっています。

この区別は手続にも効いています。第30条第1項は「有料の職業紹介事業を行おうとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならない」、第33条第1項は無料職業紹介事業についても許可が要ると定めています。無料か有料かで、条文そのものが分かれています。

無料でも許可が要る

無料だから自由にやってよい、ということにはなっていません。第33条第1項は、無料職業紹介事業についても「厚生労働大臣の許可を受けなければならない」と定めています。お金を取るかどうかで条文は分かれますが、どちらも許可の対象です。手数料の扱いも第32条の3が細かく定めていて、有料職業紹介事業者は求職者から手数料を取ってはならないのが原則とされています。

海で働く人についての船員職業安定法にも「無料」が47回出てきて、「無料の船員職業紹介」という同じ形の言葉が使われています。

「無料」が使われるほかの場面

「無料」460件を全部取り出すと、105本の法令に出てきました。内訳は法律235・省令183・政令41で、多い順に無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準83、船員職業安定法47、職業安定法41と続きます。

戸籍の「無料証明」

手続の場面でも「無料」が使われます。健康保険法には、見出しがそのまま「戸籍事項の無料証明」という条文があります。

市町村長…は、保険者又は保険給付を受けるべき者に対して、当該市町村…の条例で定めるところにより、被保険者又は被保険者であった者の戸籍に関し、無料で証明を行うことができる。

健康保険法 第196条第1項

労働基準法第111条の見出しも「無料証明」で、「労働者及び労働者になろうとする者は、その戸籍に関して…無料で証明を請求することができる」と定めています。手数料を取らずに役所が証明を出す場面なので、「無償」ではなく「無料」です。
戸籍や住民票を見せる手続の言葉については、「閲覧」と「観覧」の違いは?でも取り上げました。

無料低額宿泊所、被服の無料貸与

社会福祉法に基づく「無料低額宿泊所」も、料金を取らないか低額で泊まれる施設という意味です。防衛省の職員の給与等に関する法律施行令には「被服の無料貸与及び支給」という見出しもあります。「無料」はサービスや物の提供に値段を付けないことを指して使われています。

迷ったときの使い分け

見返りを受け取らずに渡すなら「無償」

物や権利をただで渡す、ただで貸す。契約の性質を言うなら「無償」です。法令では「有償」と対で使われ、「無償譲渡」「無償貸付」という形で出てきます。

料金を取らないなら「無料」

サービスや手続に値段を付けないなら「無料」です。法令では「有料」と対で使われ、「無料職業紹介」「無料証明」という形で出てきます。

場面ごとの例

  • 財産をただで与える契約 … 無償(贈与)
  • 物をただで借りる契約 … 無償(使用貸借)
  • 土地をただで貸し付ける … 無償貸付
  • 手数料を取らない職業紹介 … 無料職業紹介
  • 役所が戸籍の証明をただで出す … 無料証明
  • 施設をただか低額で使わせる … 無料低額宿泊所

お金そのものを表す言葉の使い分け(価格・値段・料金・代金・価額)は、「価格」と「値段」の違いは?で数えています。

よくある質問

「無償」と「無料」は読み方が違いますか

「無償」は「むしょう」、「無料」は「むりょう」です。常用漢字表で、「無」の音は「ム」(ほかに「ブ」)、「償」の音は「ショウ」、「料」の音は「リョウ」とされています。

契約書ではどちらを使いますか

条文の使い方にならうなら、対価をやりとりしない契約の性質を書くときは「無償」です。民法は贈与も使用貸借も「無償」と書き、「無料」は1回も使っていません。

「無償」の反対は「有償」ですか

はい。法令では無償1,295件に対し有償725件で、「有償又は無償」という言い方も22件ありました。「無料」の反対は「有料」で、こちらは721件です。

「無償ボランティア」と「無料ボランティア」はどちらですか

条文から直接言える言い方ではありませんが、報酬を受け取らずに働くという意味なら「無償」の側です。法令の「無償」は、見返りを受け取らないことを指して使われています。

「無償化」という言葉はどちらの意味ですか

保育や授業料について使われる言い方で、利用する人が料金を負担しないようにするという意味で使われています。法令の用語としての「無償」は見返りを受け取らないことを指すので、日常で言う「無償化」は「無料にすること」に近い使われ方です。

法律によって使う言葉が違うのはよくあることですか

よくあります。たとえば「議決」と「決議」も、地方自治法は「議決」、会社法は「決議」と分かれていました。詳しくは「議決」と「決議」の違いは?で数えています。雇用の場面の言葉については「退職」と「辞職」の違いは?もあわせてどうぞ。

まとめ

「無償」は見返りを受け取らないこと、「無料」は料金を取らないことです。
常用漢字表でも、「償」の訓は「つぐなう」で相手に返す向きの字、「料」の例には「料金」が挙がっています。

法令では無償1,295件・有償725件、無料460件・有料721件。民法は「無償」13回に対し「無料」「有料」が0回、職業安定法は「無料」49回・「有料」52回に対し「無償」「有償」が0回でした。職業安定法第4条は「無料の職業紹介」を「手数料又は報酬を受けないで行う職業紹介」と定義しています。

ただで渡すなら「無償」、ただで提供するなら「無料」と覚えておけば、迷わずに書き分けられます。

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