「必要なそちを講じる」「傷口にしょちをする」。
「措置」と「処置」は、どちらも「何かをして対応すること」を言う言葉ですが、書くときにどちらを選べばよいのか迷います。
結論を先にお伝えすると、「措置」は問題に対して制度や仕組みとしてとる対応、「処置」は目の前のものに直接手を加える手当てです。
法令で数えると、差ははっきりしていました。現行の法令で「措置」は151,259件、「処置」は1,014件。
さらに法令の題名に「措置」が入るものは1,355本あるのに対し、「処置」が入る題名はたった1本でした。しかも、1つの文の中で両方を書き分けている条文がいくつもあります。
この記事では、常用漢字表と、法令の件数・条文をそのまま示しながら整理します。
「措置」と「処置」の違いは?結論から
- 措置(そち)… 問題を解決するために制度・対策としてとる対応(例:必要な措置を講じる、応急措置、特別措置法)
- 処置(しょち)… 目の前のものに直接手を加える手当て(例:救急救命処置、予防処置、傷の処置)
見分け方は、手を動かして直接どうにかするのか、仕組みとして何かを決めて動かすのかです。
けが人の手当てや器具への手入れなら「処置」、制度を作る・人員を増やす・対策をとるといった対応なら「措置」と考えると分かりやすくなります。
ここから、その根拠を順に見ていきます。
常用漢字表で見る:「措」の例に「措置」、「処」の例に「処置」
国が定めた常用漢字表で、3つの字の読みと例を確かめました。
- 措 … 音:ソ。例:措置,措辞,挙措
- 処 … 音:ショ。例:処置,処罰,処女
- 置 … 音:チ。例:位置,放置,処置/訓:おく。例:置く
出典:常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)本表/2026年9月24日確認
「措置」も「処置」も、どちらも常用漢字表の例に挙がっています。どちらかが誤りということはありません。
しかも「処置」は、「処」の例と「置」の例の両方に出てきます。法令でどう使い分けられているかは、次の件数と条文で見ていきます。
法令の数字:「措置」151,259件、「処置」1,014件
次に、現行の法令を全文検索して件数を数えました。
- 措置 … 151,259件
- 処置 … 1,014件
- 処理 … 26,580件/対処 … 2,703件
出典:e-Gov法令検索(現行法令の全文検索)/2026年9月24日確認
「措置」は「処置」の約150倍です。法令の世界では、対応を指す言葉はほとんど「措置」でまかなわれています。
題名に入るのは「措置」だけ
もっとはっきり差が出るのが、法令の題名です。
- 題名に「措置」を含む法令 … 1,355本(例:金融機関経理応急措置法、租税特別措置法)
- 題名に「処置」を含む法令 … 1本だけ(応急救護処置に関し医師である者に準ずる能力を有する者を定める規則)
出典:e-Gov法令検索の法令名検索/2026年9月24日確認
「特別措置法」という形だけで19,156件が本文に出てきます。制度の名前になるのは「措置」のほうで、「処置」はただ1本の規則名に、それも「応急救護処置」という決まった言葉の一部として入っているだけでした。
題名を数えて使い分けを確かめる方法は、「様式」と「書式」の違いは?でも使っています。
言い回しで比べる
- 措置を講 … 15,125件(うち「措置を講じなければならない」3,056件)/必要な措置 … 9,577件/措置命令 … 221件/暫定措置 … 1,282件
- 処置を行 … 42件/必要な処置 … 40件
- 応急措置 … 546件/応急処置 … 8件(「応急の措置」も192件)
出典:e-Gov法令検索/2026年9月24日確認
「措置」は「講じる」と結びつき、「処置」は「行う」と結びついています。日常でよく使う「応急処置」も、法令では「応急措置」のほうが圧倒的でした。
「措置」は制度としての対応:労働安全衛生法と災害対策基本法
「措置」がどう使われるかは、条文を見るのが早道です。労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第20条は、次のように定めています。
事業者は、次の危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。
一 機械、器具その他の設備(以下「機械等」という。)による危険
二 爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険
三 電気、熱その他のエネルギーによる危険労働安全衛生法 第20条
第21条は作業方法から生ずる危険、第22条は健康障害について、同じ形で「必要な措置を講じなければならない」と続きます。この法律には「措置」が243回出てきますが、本則に「処置」は1回も出てきません(2回とも附則です)。
災害対策基本法(昭和36年法律第223号)も同じです。第50条第1項は災害応急対策の中身を並べ、第2号に「消防、水防その他の応急措置に関する事項」を挙げています。この法律では「措置」が284回、「処置」は0回でした。
「処置」は現場の手当て:救急救命士法と歯科衛生士法
では「処置」はどこに出てくるのか。1,014件を取り出すと、340本の法令に散らばっていて、省令542・規則227・法律182・政令61という内訳でした。多い順では犯罪捜査規範30、毒物及び劇物取締法施行令18、原子力施設の品質管理を定めた一連の規則が17〜18ずつ、救急救命士法とその施行規則が13と14です。
救急救命士法は「救急救命処置」を定義している
救急救命士法(平成3年法律第36号)第2条第1項は、この言葉そのものを定義しています。
この法律で「救急救命処置」とは、(中略)当該重度傷病者に対して行われる気道の確保、心拍の回復その他の処置であって、当該重度傷病者の症状の著しい悪化を防止し、又はその生命の危険を回避するために緊急に必要なものをいう。
救急救命士法 第2条第1項
気道の確保、心拍の回復。体に直接はたらきかける行為が「処置」です。第44条第1項は、厚生労働省令で定める救急救命処置は医師の具体的な指示を受けなければ行ってはならないと定めています。
歯科衛生士法の「予防処置」
歯科衛生士法(昭和23年法律第204号)第2条第1項も、仕事の中身を「予防処置」という言葉で定義しています。
歯牙及び口腔くうの疾患の予防処置として次に掲げる行為を行うことを業とする者をいう。
一 歯牙露出面及び正常な歯茎の遊離縁下の付着物及び沈着物を機械的操作によつて除去すること。
二 歯牙及び口腔くうに対して薬物を塗布すること。歯科衛生士法 第2条第1項
「機械的操作によつて除去する」「薬物を塗布する」。ここでも、手を動かして直接はたらきかける行為が「処置」と呼ばれています。
医療の言葉づかいについては、「診療」と「診察」の違いは?でも条文を数えています。
「処置」は人に限らない:毒物及び劇物取締法施行令
「処置」が向かう先は人の体だけではありません。毒物及び劇物取締法施行令(昭和30年政令第261号)には「空容器の処置」「空容器等の処置」という見出しの条文があります。
容器又は被包に収められたモノフルオール酢酸の塩類を含有する製剤の全部を消費したときは、消費者は、その製剤が収められていた容器又は被包を保健衛生上危害を生ずるおそれがないように処置しなければならない。
毒物及び劇物取締法施行令 第14条(空容器等の処置)
空になった容器に手を加えて危険をなくすこと。これも「処置」です。この政令には「処置」が18回出てきます。
事故のときに「採った処置」
介護サービスの基準を定めた省令には、「事故の状況及び事故に際して採った処置について記録しなければならない」という規定が並びます。指定居宅サービス等の基準で15か所、指定地域密着型サービスの基準で14か所など、同じ言い回しが繰り返されています。現にその場でとった行為を指すときは、法令でも「処置」が選ばれています。
1つの文で書き分けている条文
両方を同じ文の中で使っている条文を読むと、関係がはっきりします。
学校保健安全法:救急処置は「保健に関する措置」の1つ
学校には、健康診断、健康相談、保健指導、救急処置その他の保健に関する措置を行うため、保健室を設けるものとする。
学校保健安全法 第7条(保健室)
「救急処置その他の保健に関する措置」。処置は、措置の中に含まれる具体的な行為として置かれています。同じ法律の第14条も「疾病の予防処置を行い、又は治療を指示し、並びに運動及び作業を軽減する等適切な措置をとらなければならない」と、個々の手当てを「処置」、全体の対応を「措置」と書き分けています。
このように、片方がもう片方に含まれる形は、「退職」と「辞職」の違いは?でも見られます。
道路交通法:事故の対応は「措置」、けが人の手当ては「処置」
道路交通法(昭和35年法律第105号)第72条第1項は「交通事故の場合の措置」という見出しで、運転者に「負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない」と定めています。
一方、第108条の2第1項第8号は免許を受けようとする者への講習を挙げるところで、次のように書いています。
応急救護処置(交通事故の現場においてその負傷者を救護するため必要な応急の処置をいう。)に関する講習
道路交通法 第108条の2第1項第8号
事故が起きたときにとるべき対応全体は「措置」、その中で負傷者に直接行う手当てが「処置」。同じ法律の中で、役割が分かれています(この法律では「措置」308回、「処置」2回)。
警察官職務執行法:同じ条の中で両方が出てくる
警察官職務執行法(昭和23年法律第136号)第4条は、見出しが「避難等の措置」で、第1項は危険な事態で「必要と認められる措置をとることを命じ、又は自らその措置をとることができる」と定めています。続く第2項は「前項の規定により警察官がとつた処置については、順序を経て所属の公安委員会にこれを報告しなければならない」です。
迷ったときの使い分け
制度・対策としての対応なら「措置」
規則を作る、人を配置する、費用を負担する、危険を防ぐ仕組みを整える。こうした対応は「措置」です。法令では「措置を講じる」という形で使われます。
直接手を加える手当てなら「処置」
けが人の手当て、歯の予防処置、器具や物への手入れ。手を動かして対象そのものにはたらきかけるなら「処置」です。法令では「処置を行う」という形になります。
場面ごとの例
- 会社が危険を防ぐ対策をとる … 必要な措置を講じる
- 災害のときに消防・水防を行う … 応急措置
- 税の特例を定める法律 … 特別措置法
- 救急隊員が気道を確保する … 救急救命処置
- 歯科衛生士が歯石を除去する … 予防処置
- 交通事故の現場で負傷者を手当てする … 応急救護処置
よくある質問
「応急措置」と「応急処置」はどちらが正しいですか
どちらも使われますが、法令では差が大きく、「応急措置」546件に対して「応急処置」は8件でした(「応急の措置」も192件あります)。制度としての緊急対応を指すなら「応急措置」、けが人への手当てを指すなら「応急処置」が合います。道路交通法は、けが人への手当てを「応急救護処置」と呼んでいます。
「是正措置」と「是正処置」はどちらが正しいですか
この2つは法令でも拮抗していて、「是正措置」100件、「是正処置」88件でした。「是正処置」は原子力施設や水道の品質管理を定めた規則に多く、「是正措置」は医療法施行規則などに出てきます。分野ごとに決まった書き方があるので、その分野の規則や社内規程に合わせるのが安全です。「予防措置」62件と「予防処置」84件も同じように分かれています。
「措置」と「処置」は読み方が違いますか
「措置」は「そち」、「処置」は「しょち」です。常用漢字表で、「措」の音は「ソ」、「処」の音は「ショ」、「置」の音は「チ」とされています。
「措置」と「処理」「対処」はどう違いますか
法令の件数では「処理」26,580件、「対処」2,703件で、「措置」151,259件には及びません。使い分けまで条文から言い切れるものではありませんが、件数の上では、対応を表す言葉として法令がまず選ぶのは「措置」でした。
健康保険の「処置」とは何ですか
健康保険法第63条第1項は、療養の給付として「一 診察 二 薬剤又は治療材料の支給 三 処置、手術その他の治療 …」を挙げています。ここでも「処置」は、手術と並ぶ具体的な行為として置かれています。この条文については「療養」と「静養」の違いは?でも取り上げました。
ビジネス文書ではどちらを使えばよいですか
条文から言えるのは、制度や対策としての対応なら「措置」、直接の手当てなら「処置」という使い分けです。役所に出す文書や社内規程のように制度を書く場面では、法令にならって「措置」を使うと通じやすくなります。
まとめ
「措置」は制度や対策としてとる対応、「処置」は目の前のものに直接手を加える手当てです。
常用漢字表では「措」の例に「措置」、「処」の例に「処置」が挙がっていて、どちらも正しい言葉です。
法令では「措置」が151,259件、「処置」が1,014件。題名に入るのは「措置」が1,355本で、「処置」はわずか1本でした。学校保健安全法第7条が「救急処置その他の保健に関する措置」と書くように、処置は措置の中の具体的な行為として置かれています。
仕組みで対応するなら「措置」、手を動かして手当てするなら「処置」と覚えておけば、迷わずに書き分けられます。
