病院の入口にある「診療時間」、受付で呼ばれる「診察室へどうぞ」。
「診療」と「診察」はよく似ていて、どちらを書けばいいのか迷うことがあります。
結論を先にお伝えすると、「診察」は患者を診ること、「診療」は診察に治療などを合わせた医療全体です。
この線引きは、国語辞典だけでなく法律の条文にそのまま表れています。
なかでも医師法は、たった1つの文の中で「診療」と「診察」を使い分けていました。
この記事では、医師法・健康保険法などの条文と、法令の中での件数を示しながら整理します。
なお、この記事は言葉の使い分けを扱うもので、病気や治療についての助言ではありません。
「診療」と「診察」の違いは?結論から
範囲の広さが違います。
- 診察 … 医師が患者を診て、状態を確かめること。医療の中の1つの段階
- 診療 … 診察と治療などを合わせた、医療の行為全体
つまり「診療」の中に「診察」が含まれている関係です。
- 医師の診察を受ける/診察室に入る
- 診療時間/診療所/診療科/診療報酬
「診察」は診る場面、「診療」は医療という仕事や制度の全体を指すと考えると、ほとんどの場面で迷わなくなります。
医師法は1つの文で両方を使い分けていた
医師の仕事を定めた法律が医師法です。
その第19条に、この2語の関係がいちばんよくわかる一文があります。
診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。
出典:医師法 第19条第1項/e-Gov法令検索にて2026年9月12日確認
同じ文の中で、2つの言葉が別の役割を持っています。
- 診療に従事する医師 … 医師が携わっている仕事の全体
- 診察治療の求 … 患者が求める具体的な行為。「診察」と「治療」を並べている
「診療」は仕事の名前、「診察」はその中身の一部。
そして「診察」は、「治療」と並べられる同じ階層の行為として扱われています。
「診察しないで治療をしてはならない」
すぐ次の第20条では、診察と治療が順番のある別々の行為として書かれています。
医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し…てはならない。
出典:医師法 第20条/e-Gov法令検索にて2026年9月12日確認
まず診察、そのあとで治療。
診察は、治療や診断書の前に必ず来る段階だということがわかります。
「診療をしたときは、診療録に記載」
いっぽう、医療の行為をまとめて言うときは「診療」です。
医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。
出典:医師法 第24条第1項/e-Gov法令検索にて2026年9月12日確認
カルテのことを、法律は「診療録」と呼んでいます。
診察だけでなく、処方や処置も含めて記録するものなので、「診察録」ではなく「診療録」です。
第23条にも「医師は、診療をしたときは、本人又はその保護者に対し、療養の方法その他保健の向上に必要な事項の指導をしなければならない」とあります。
健康保険法も「診察」と「治療」を別の項目にしている
保険で受けられる医療の中身を定めた条文も、同じ切り分けです。
被保険者の疾病又は負傷に関しては、次に掲げる療養の給付を行う。
一 診察
二 薬剤又は治療材料の支給
三 処置、手術その他の治療
四 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
五 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護出典:健康保険法 第63条第1項/e-Gov法令検索にて2026年9月12日確認
保険で受けられる医療の最初の項目が「診察」です。
そのあとに薬、治療、看護が続きます。
保険医のルールを定めた「保険医療機関及び保険医療養担当規則」も、第1条で同じ5項目を並べています。
さらに第20条は、見出しが「診療の具体的方針」で、その中に「一 診察」「二 投薬」…と項目が続きます。
一 診察
イ 診察は、特に患者の職業上及び環境上の特性等を顧慮して行う。出典:保険医療機関及び保険医療養担当規則 第20条第1号(診療の具体的方針)/e-Gov法令検索にて2026年9月12日確認
「診療」という大きな箱の中に、「診察」「投薬」…という小さな箱が入っている。
法令の組み立てそのものが、2語の関係を表しています。
歯科医師法は同じ、獣医師法は少し違う
歯科医師法は医師法とそっくり
歯科医師法も、医師法と同じ文言で書かれています。
- 第19条 診療に従事する歯科医師は、診察治療の求があつた場合には…
- 第20条 歯科医師は、自ら診察しないで治療をし…てはならない
- 第23条 歯科医師は、診療をしたときは、遅滞なく…診療録に記載しなければならない
出典:歯科医師法/e-Gov法令検索にて2026年9月12日確認
獣医師法は「診療を求められたとき」
動物のお医者さんを定めた獣医師法は、少し書き方が違いました。
診療を業務とする獣医師は、診療を求められたときは、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。
出典:獣医師法 第19条第1項(診療及び診断書等の交付の義務)/e-Gov法令検索にて2026年9月12日確認
医師法が「診察治療の求」と書くところを、獣医師法は「診療を求められたとき」と書いています。
診察と治療を分けて書かず、まとめて「診療」と言っているわけです。
それでも「診察」が消えるわけではありません。第18条には「獣医師は、自ら診察しないで診断書を交付し…」とあり、診る行為そのものは、やはり「診察」です。
獣医師法第17条は、獣医師でなければ牛、馬、めん羊、山羊、豚、犬、猫、鶏、うずらなどの「診療を業務としてはならない」と定めています。
人でも動物でも、仕事全体は「診療」、診る行為は「診察」という線引きは変わりません。
法令の件数は「診療」4,974件、「診察」294件
e-Gov法令検索で、現行の法令を横断検索しました(2026年9月12日確認)。
件数は、その語が出てくる条文の文の数です。
- 診療 … 4,974件
- 診察 … 294件
「診療」が約17倍です。ただし、その多くは複合語でした。
「診療」の多くは複合語
- 診療所 … 2,143件
- 診療報酬 … 742件
- 診療録 … 215件
- 診療科 … 184件
- 診療に従事 … 101件
いずれも e-Gov法令検索にて2026年9月12日確認
単純に足すと約3,400件です。1つの文に「診療所」と「診療報酬」が両方出てくるような場合は重ねて数えているので、正確な割合ではありません。
それでも、「診療」の多くが施設・お金・記録・科目の名前だということははっきりしています。
「診療」は、医療という制度そのものを組み立てる言葉になっています。
「診察」は、診る場面にだけ出てくる
「診察」が出てくる文を取り出して、中身を確かめました。目立ったのは次のような場面です。
- 保険で受けられる医療の項目としての「診察」(健康保険法など)
- 入院が必要かどうかを判断するための「指定医の診察」(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)
- 施設の基準としての「診察室」(28件)
- 空港や港での検疫の「診察」
たとえば精神保健及び精神障害者福祉に関する法律は、入院の措置について次のように定めています。
…その指定する二人以上の指定医の診察を経て、…各指定医の診察の結果が一致した場合でなければならない。
出典:精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 第29条第2項/e-Gov法令検索にて2026年9月12日確認
「診察の結果」をもとに判断する。ここでも「診察」は、治療の前に状態を確かめる行為として使われています。
労災保険の規則にも、「病院又は診療所において診察又は治療を受けること」という書き方があります(労働者災害補償保険法施行規則 第8条第4号)。
やはり「診察」と「治療」は並べて書く別々の行為です。
病院の設備の一覧に、両方が並んでいた
医療法は、病院が備えなければならない設備や記録を並べています。その一覧に、2語がそろって出てきます。
…二 各科専門の診察室 三 手術室 四 処置室 … 九 診療に関する諸記録 十 診療科名…
出典:医療法 第21条第1項/e-Gov法令検索にて2026年9月12日確認
部屋は「診察室」、記録と科目は「診療」。
医師が患者を診る部屋は「診察」、病院全体で扱う記録や科目は「診療」と、きちんと書き分けられています。
「診療所」は定義があり、「診察所」は紛らわしい名前
「診療所」は、医療法が定義している言葉です。
この法律において、「診療所」とは、医師又は歯科医師が、公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行う場所であつて、患者を入院させるための施設を有しないもの…又は十九人以下の患者を入院させるための施設を有するものをいう。
出典:医療法 第1条の5第2項/e-Gov法令検索にて2026年9月12日確認
いっぽう「診察所」は、医療法第3条の中に出てきます。
病院や診療所でない場所が、「病院、病院分院、産院、療養所、診療所、診察所、医院その他病院又は診療所に紛らわしい名称」を付けてはならない、という条文です。
つまり「診察所」は、法律上の施設の種類ではなく、使ってはいけない紛らわしい名前の例として出てきます。
医師が医療を行う場所の正式な呼び名は、あくまで「診療所」です。
法令の数字で表記を確かめた話としては、「不要」と「不用」の違いは?や「生育」と「成育」の違いは?もあわせてご覧ください。
迷ったときの考え方
医師に診てもらう場面そのものなら「診察」
「診察を受ける」「診察室に呼ばれる」「医師が診察する」。
患者と医師が向き合って状態を確かめる場面は「診察」です。
医療の仕事・施設・制度・記録なら「診療」
診療所、診療科、診療報酬、診療録、診療に従事する。
治療まで含めた医療全体や、その仕組みを言うときは「診療」です。
「診療時間」と「診察時間」
医療機関が医療を行っている時間全体なら「診療時間」、医師に診てもらっている時間そのものを言うなら「診察時間」と考えると筋が通ります。
法令では「診療時間」が9件出てきました。
動物病院でも同じ
獣医師法も、仕事全体は「診療」、診る行為は「診察」と書いていました。
人の病院でも動物病院でも、使い分けの考え方は同じです。
同じ読みで漢字が分かれる言葉としては、「調整」と「調節」の違いは?もあわせてご覧ください。
1つの文の中で2つの言葉を書き分けている条文としては、「作成」「作製」「制作」「製作」の違いは?もあわせてご覧ください。
よくある質問
「診察」と「診療」はどちらが広い意味ですか
「診療」です。医師法は「診療に従事する医師」と「診察治療の求」を1つの文で書き分けており、健康保険法や療養担当規則でも、「診察」は医療の項目の1つとして並べられています。
カルテはなぜ「診療録」なのですか
医師法第24条が、医師は「診療をしたときは…診療録に記載しなければならない」と定めているからです。診察だけでなく、治療も含めた医療全体を記録するものなので「診療」です。
「診療所」を「診察所」と書いてもいいですか
正式な名前は「診療所」です。医療法第1条の5が「診療所」を定義しています。「診察所」は、医療法第3条で紛らわしい名称の例として挙げられている言葉です。
「診察治療」という言い方はありますか
あります。医師法第19条と歯科医師法第19条に「診察治療の求」という形で出てきます。法令全体で2件でした。
歯医者さんや獣医さんでも使い分けは同じですか
同じです。歯科医師法は医師法とほぼ同じ文言で、獣医師法も「診療を業務とする獣医師」「自ら診察しないで」と書き分けています。
まとめ
「診察」は患者を診ること、「診療」は診察と治療などを合わせた医療全体です。
医師法第19条は、「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には…」と、1つの文の中で2語を書き分けていました。
第20条は「自ら診察しないで治療をし…てはならない」、第24条は「診療をしたときは…診療録に記載」です。
健康保険法と療養担当規則も、医療の項目を「一 診察」「三 処置、手術その他の治療」と分けて並べ、療養担当規則第20条は「診療の具体的方針」の中に「診察」「投薬」を置いています。
法令の件数は「診療」4,974件、「診察」294件。
「診療」の多くは診療所・診療報酬・診療録・診療科といった制度の言葉で、「診察」は診察室や指定医の診察のような、診る場面の言葉でした。
病院の設備の一覧でも、部屋は「診察室」、記録と科目は「診療」。
迷ったら、診る場面なら「診察」、医療全体なら「診療」で書き分けてください。
法令を数えて表記を確かめた話としては、「科学」と「化学」の違いは?もあわせてご覧ください。
法律が1つの文で書き分けていたもう一つの例としては、「利用」と「使用」の違いは?土地収用法は1つの文で両方を使い分けていたもあわせてご覧ください。

