「会社を退職する」「議員が辞職する」。
どちらも仕事や職を離れることを言う言葉ですが、どこが違うのか、自分が辞めるときはどちらを使えばいいのか、迷うことがあります。
結論を先にお伝えすると、「退職」は職を離れること全般、「辞職」はそのうち自分の意思で職を辞めることです。
国の人事院規則は、「辞職」を「職員がその意により退職することをいう」と定めています。辞職は、退職の一つの形です。
実際の法令を数えてみると、「退職」は15,417件、「辞職」は44件でした。
さらに条文を読むと、地方自治法は議員が辞めるときは「辞職」、知事や市町村長が辞めるときは「退職」と書き分けていました。
この記事では、人事院規則の定義、常用漢字表、法令の件数と条文をそのまま示しながら整理します。
この記事は言葉の書き分けを扱うもので、仕事を辞める手続きについての助言ではありません。実際の手続きは、勤め先の就業規則などで確かめてください。
「退職」と「辞職」の違いは?結論から
- 退職(たいしょく)… 勤めや職を離れること全般。自分から辞める場合のほか、定年、任期の満了、解雇なども含む
- 辞職(じしょく)… 自分の意思で職を辞めること。退職の一つ
見分け方は、本人の意思で辞めたのかどうかです。
自分から辞めたなら「辞職」とも「退職」とも言えますが、定年や任期の満了、解雇で職を離れたときは「退職」で、「辞職」とは言いません。
ただし、法令での使われ方には偏りがあります。「辞職」は、議員や公務員、内閣などの話にしか出てきません。会社で働く人のことを定めた労働基準法には、「辞職」は1回も出てきませんでした。
ここから、その根拠を順に見ていきます。
国の定義:人事院規則「辞職=その意により退職すること」
「退職」と「辞職」の関係をいちばんはっきり書いているのは、国家公務員の任用のルールを定めた人事院規則です。第4条で、職を離れることに関わる言葉を並べて定義しています。
七 離職 職員が職員としての身分を失うことをいう。
八 失職 職員が欠格条項に該当することによって当然離職することをいう。
九 退職 失職の場合及び懲戒免職の場合を除いて、職員が離職することをいう。
十 免職 職員をその意に反して退職させることをいう。
十一 辞職 職員がその意により退職することをいう。出典:人事院規則8―12(職員の任免)第4条(定義)第7号〜第11号/e-Gov法令検索にて2026年9月15日確認
ポイントは、「辞職」も「免職」も、「退職」という言葉を使って定義されていることです。
- 辞職 … 職員がその意により退職すること(自分の意思で辞める)
- 免職 … 職員をその意に反して退職させること(本人の意思に反して辞めさせる)
- 退職 … 失職と懲戒免職の場合を除いて、職員が離職すること
自分の意思で辞めるのが「辞職」、意思に反して辞めさせられるのが「免職」。「退職」は、その両方を含む広い言葉として置かれています。
さらに外側に、身分を失うこと全般を言う「離職」があります。
公務員の「根本基準」を定めた国家公務員法の話は、「根本」と「根元」の違いは?でも取り上げています。
辞職は「書面で申し出る」
任命権者は、職員から書面をもって辞職の申出があったときは、特に支障のない限り、これを承認するものとする。
出典:人事院規則8―12(職員の任免)第51条(辞職)/e-Gov法令検索にて2026年9月15日確認
国家公務員が自分から辞めるときは、書面で「辞職の申出」をし、任命権者(職員を任命する権限を持つ者)が承認する、という流れです。
人事記録の記載事項を定めた内閣官房令にも、「職員が提出した辞職の申出の書面」という言葉が出てきます。
辞職でも免職でもない退職:任期の満了
人事院規則には、「免職及び辞職以外の退職」という見出しの条文もあります。
次の各号のいずれかに該当する場合においてその任期が更新されないときは、職員は、当然退職するものとする。…
一 臨時的任用の期間が満了した場合
二 法令により任期が定められている場合において、その任期が満了したとき。出典:人事院規則8―12(職員の任免)第52条(免職及び辞職以外の退職)の一部/e-Gov法令検索にて2026年9月15日確認
任期が終わって職を離れるのは、自分の意思でも、意思に反して辞めさせられるのでもありません。こうした場合も含めて、まとめて「退職」と呼んでいるわけです。
通知書の区分でも「辞職」と「退職」は別の欄
職員に渡す人事異動通知書の場面を並べた第53条も、2つを分けて書いています。
十 職員の辞職を承認した場合
十一 職員が退職した場合(免職又は辞職の場合を除く。)出典:人事院規則8―12(職員の任免)第53条(通知書の交付)第10号・第11号/e-Gov法令検索にて2026年9月15日確認
「退職(免職又は辞職の場合を除く。)」という書き方からも、本来の「退職」には免職も辞職も含まれることが読み取れます。
常用漢字表で見る:「辞」の例に「辞職」
国が定めた常用漢字表で、2つの字の読みと例を確かめました。
- 辞 … 音:ジ。例:辞書,辞職,式辞/訓:やめる。例:辞める
- 退 … 音:タイ。例:退却,退屈,進退/訓:しりぞく。例:退く/しりぞける。例:退ける
出典:常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)本表/2026年9月15日確認
「辞」の音読みの例には、「辞職」そのものが挙がっています。いっぽう「退」の例に「退職」はありません。
字の読みを見ても、「辞」には「やめる」、「退」には「しりぞく」という訓があります。「辞職」は職を辞める、「退職」は職から退く、という組み立てです。
法令の数字:「退職」15,417件、「辞職」44件
では、実際の法令ではどう使われているのか。e-Gov法令検索で、現行の法令を横断検索しました(2026年9月15日確認)。
- 退職 … 15,417件
- 辞職 … 44件
件数は、その言葉を含む箇所の数です
「退職」は「辞職」の350倍です。法令で職を離れることを言うときは、ほとんどが「退職」です。
「退職」を含む言葉
- 退職手当 … 2,662件
- 退職金 … 1,579件
- 退職者 … 306件
- 定年退職 … 260件
e-Gov法令検索にて2026年9月15日確認
退職手当、退職金、定年退職……。お金や年齢の決まりの中で、「退職」は職を離れること全般を言う言葉として使われています。
法令の件数から言葉の書き分けを確かめた話としては、「習得」と「修得」の違いは?もあわせてご覧ください。
「辞職」44件は、だれが辞める話か
「辞職」の44件を1つずつ読んで、だれが辞める話なのかで分けました。
- 国会議員・地方議会の議員や議長など … 15件(国会法、地方自治法、国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律、裁判官弾劾法など)
- 国家公務員 … 11件(人事院規則8―12、人事院規則14―21、人事記録に関する内閣官房令など)
- 内閣の「総辞職」 … 8件(日本国憲法、国家行政組織法、内閣府設置法など)
- 日本学術会議の会員など … 7件(日本学術会議法、同法施行令、日本学術会議会則)
- 教育長・教育委員 … 2件(地方教育行政の組織及び運営に関する法律)
- その他 … 1件(漁業法施行法)
e-Gov法令検索で「辞職」を含む44件を分類(2026年9月15日確認)
44件すべてが、議員・公務員・内閣・公的な会議の委員の話でした。会社で働く人が辞める話に「辞職」を使った条文は、1つもありません。
会社員や公務員の基本の法律に「辞職」は出てこない
- 労働基準法 … 退職 22回/辞職 0回
- 国家公務員法 … 退職 181回/辞職 0回
- 地方公務員法 … 退職 109回/辞職 0回
- 民法 … 退職 0回/辞職 0回(「辞任」は12回)
各法令の全文(附則を含む)で数えたもの/e-Gov法令検索にて2026年9月15日確認
意外なことに、国家公務員法そのものにも「辞職」は出てきません。「辞職」という言葉は、その下の人事院規則で定義されています。
議員は「辞職」、知事は「退職」:地方自治法
条文を読んでいくと、地方自治法の書き分けがはっきりしていました。議会の議員が辞めるときは「辞職」です。
普通地方公共団体の議会の議員は、議会の許可を得て辞職することができる。但し、閉会中においては、議長の許可を得て辞職することができる。
出典:地方自治法(昭和22年法律第67号)第126条/e-Gov法令検索にて2026年9月15日確認
議長と副議長も、第108条で「議会の許可を得て辞職することができる」とされています。
ところが、知事や市町村長が辞めるときは「退職」と書かれています。
普通地方公共団体の長は、退職しようとするときは、その退職しようとする日前、都道府県知事にあつては三十日、市町村長にあつては二十日までに、当該普通地方公共団体の議会の議長に申し出なければならない。但し、議会の同意を得たときは、その期日前に退職することができる。
出典:地方自治法(昭和22年法律第67号)第145条/e-Gov法令検索にて2026年9月15日確認
知事は30日前、市町村長は20日前までに議長に申し出る。自分の意思で辞める場面なので「辞職」と言いたくなるところですが、条文は「退職」です。
- 議会の議員(第126条)… 議会の許可を得て辞職
- 議長・副議長(第108条)… 議会の許可を得て辞職
- 知事・市町村長(第145条)… 議長に申し出て退職
- 副知事・副市町村長(第165条)… 申し出て退職
- 選挙管理委員会の委員長・委員(第185条)… 承認を得て退職
- 監査委員(第198条)… 長の承認を得て退職
地方自治法(昭和22年法律第67号)の各条から/e-Gov法令検索にて2026年9月15日確認
地方自治法の本則で「辞職」が出てくるのは、議員と議長・副議長の条文、そして「議員の辞職及び資格の決定」という節の見出しだけでした。本則の「退職」は45回です。
国会法の「退職者」は、本人の意思と関係ない
国会法には、章の題名そのものに2つの言葉が並んでいます。第13章「辞職、退職、補欠及び資格争訟」です。
第百七条 各議院は、その議員の辞職を許可することができる。但し、閉会中は、議長においてこれを許可することができる。
第百八条 各議院の議員が、他の議院の議員となつたときは、退職者となる。
第百九条 各議院の議員が、法律に定めた被選の資格を失つたときは、退職者となる。出典:国会法(昭和22年法律第79号)第107条〜第109条/e-Gov法令検索にて2026年9月15日確認
ここでは、議員が自分から辞めて議院の許可を受けるのが「辞職」。他の議院の議員になったり、議員になる資格を失ったりして、本人が辞めると言わなくても議員でなくなるのが「退職者となる」です。
同じ章の中で、自分の意思によるものとそうでないものを、2つの言葉で分けています。
法令に1回だけ出てくる「辞表」
「辞表」という言葉も探してみると、現行の法令では1件だけでした。それも国会法です。
内閣は、内閣総理大臣が欠けたとき、又は辞表を提出したときは、直ちにその旨を両議院に通知しなければならない。
出典:国会法(昭和22年法律第79号)第64条/e-Gov法令検索にて2026年9月15日確認
内閣は「総辞職」:日本国憲法
日本国憲法には「退職」は1回も出てきません。出てくるのは「総辞職」です。
内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
出典:日本国憲法 第69条/e-Gov法令検索にて2026年9月15日確認
第70条も、内閣総理大臣が欠けたときや、総選挙の後に初めて国会が召集されたときは「内閣は、総辞職をしなければならない」と定めています。
「総辞職」は内閣がそろって辞職することで、法令全体では8件ありました。国家行政組織法は、その場合について「副大臣は、内閣総辞職の場合においては、内閣総理大臣その他の国務大臣がすべてその地位を失つたときに、これと同時にその地位を失う」と書いています。
自分から辞めても「退職」と書く法令
ここまで見ると、「自分の意思なら辞職」と言いたくなりますが、自分から辞める場面でも「退職」と書く法令のほうが多いのが実際です。
労働基準法:解雇も「退職の事由」の一つ
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
出典:労働基準法(昭和22年法律第49号)第22条第1項(退職時等の証明)/e-Gov法令検索にて2026年9月15日確認
「退職の事由が解雇の場合」とあるように、労働基準法の「退職」は、自分から辞める場合も、解雇される場合も含む言葉です。
常時10人以上の労働者を使う使用者が就業規則に書く事項を定めた第89条も、「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」と書いています。
会社の決まりである就業規則が「規程」ではなく「規則」である話は、「規程」と「規定」の違いは?で取り上げています。
国家公務員退職手当法:「その者の都合により退職した者」
国家公務員の退職手当を定めた法律も、自分の都合で辞めた人を「辞職した者」とは書きません。
…その者の都合により退職した者(…以下この項及び第六条の四第四項において「自己都合等退職者」という。)…
出典:国家公務員退職手当法(昭和28年法律第182号)第3条第2項の一部/e-Gov法令検索にて2026年9月15日確認
自分の都合で辞めた人(人事院規則でいえば「辞職」にあたる人)を、この法律は「その者の都合により退職した者」と書き、「自己都合等退職者」に含めています。国家公務員退職手当法の全文に、「辞職」は1回も出てきません。
民法は「解約の申入れ」
民法は、雇用の終わり方を「退職」とも「辞職」とも書かず、契約の言葉で書いています。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
出典:民法(明治29年法律第89号)第627条第1項(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)/e-Gov法令検索にて2026年9月15日確認
「辞任」とはどう違う?役職を辞めるときの言葉
似た言葉に「辞任」があります。法令では350件あり、役職や任務を辞めるときに使われています。
国会法では、議員が議員を辞めるのは第107条の「辞職」ですが、議院の役員が役員を辞めるのは第30条の「辞任」です(「役員は、議院の許可を得て辞任することができる」)。
民法でも、後見人や遺言執行者が任務を辞めることを、条文の見出しで「後見人の辞任」(第844条)、「遺言執行者の解任及び辞任」(第1019条)と呼んでいます。
民法で範囲が決まっている言葉と、日常の言葉の違いを確かめた話としては、「親族」と「親戚」の違いは?もあわせてご覧ください。
迷ったときの使い分け
会社を辞めるときは「退職」
会社員やアルバイトが辞めるときは、自分から辞める場合も含めて「退職」と書くのが、法令と同じ書き方です。
労働基準法の「退職」は、自分から辞める場合も解雇も含む言葉で、「辞職」は出てきません。
公務員・議員が自分から辞めるときは「辞職」
国家公務員が自分の意思で辞めることは、人事院規則で「辞職」と定義されています。国会議員、地方議会の議員も、自分から辞めるときは法律上「辞職」です。
内閣がそろって辞めるときは「総辞職」です。
知事・市町村長は、条文では「退職」
地方自治法は、知事や市町村長が辞めることを「退職」と書いています。議員の「辞職」とは書き分けられています。
場面ごとの例
- 退職 … 会社を退職する/定年退職/退職金・退職手当/知事が退職する(地方自治法)/任期満了による退職
- 辞職 … 議員が辞職する/職員の辞職の申出/内閣の総辞職
- 辞任 … 役員を辞任する/後見人の辞任
迷ったら、「辞めるのは自分の意思か」と「議員・公務員の話か」の2つを考えます。自分の意思で、しかも議員や公務員の話なら「辞職」。それ以外は「退職」を選べば、法令と同じ書き方になります。
よくある質問
「辞職」は「退職」に含まれますか
含まれます。人事院規則8―12は、「辞職」を「職員がその意により退職することをいう」と定義しています。辞職は、自分の意思による退職です。
会社を自分の都合で辞めるのは「辞職」ですか
意味の上では自分の意思で辞めることですが、法令の書き方は「退職」です。労働基準法に「辞職」は出てこず、国家公務員退職手当法も自分の都合で辞めた人を「自己都合等退職者」と呼んでいます。
解雇されたときも「退職」ですか
はい。労働基準法第22条は、「退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)」と書いており、解雇も退職の事由の一つとして扱っています。
知事が辞めるのは「辞職」ですか「退職」ですか
地方自治法第145条は「普通地方公共団体の長は、退職しようとするときは」と書いています。条文では「退職」です。議会の議員は、第126条で「辞職」と書かれています。
「退職」と「離職」はどう違いますか
人事院規則8―12では、「離職」は職員の身分を失うこと全般、「退職」はそのうち失職と懲戒免職を除いたもの、とされています。「離職」のほうが広い言葉です。法令では「離職」は1,563件ありました。
「辞表」は法令に出てきますか
現行の法令では1件だけで、国会法第64条の「内閣は、内閣総理大臣が欠けたとき、又は辞表を提出したときは」です。
「総辞職」とは何ですか
内閣がそろって辞職することです。日本国憲法第69条・第70条が、内閣が「総辞職をしなければならない」場合を定めています。
まとめ
「退職」は職を離れること全般、「辞職」はそのうち自分の意思で職を辞めることです。
人事院規則も、「辞職」を「職員がその意により退職することをいう」と定義しています。
法令では「退職」が15,417件、「辞職」が44件。「辞職」の44件は、議員・公務員・内閣・公的な会議の委員の話だけで、労働基準法には1回も出てきません。
地方自治法では、議員は「辞職」、知事や市町村長は「退職」と書き分けられていました。
会社を辞めるなら「退職」、議員や公務員が自分から辞めるなら「辞職」と覚えておけば、迷わずに書き分けられます。
