テレビでは「現地からのリポートです」と言うのに、大学では「レポート提出」と言います。
同じ report なのに、なぜ書き方が2つあるのか。
結論を先にお伝えすると、これはどちらかが間違いなのではありません。
分野によって使い分けるのが正解です。
しかもこの使い分けは、NHKが2022年の放送用語委員会で正式に決定したものです。
それ以前のNHKは「リポート」だけを認め、「レポート」を誤りとして扱っていました。
つまりここ数年で方針が変わった言葉なのです。
この記事では、その決定の中身と、根拠になった全国調査の数字を紹介したうえで、
場面ごとにどちらを選べばよいかを整理します。
「リポート」と「レポート」はどっちが正しい?結論から
意味の違いはありません。どちらも英語の report を写した同じ言葉です。
違うのは使われる分野です。
- リポート … 放送・報道の分野。「現地からのリポート」「リポーター」
- レポート … 学校の提出物、ビジネス文書。「レポート課題」「月次レポート」
大学の課題を「リポート」と書いても間違いではありませんが、読み手にとっては見慣れない形になります。
逆に、テレビ局の原稿で「レポート」と書くと、社内の表記ルールに引っかかります。
どちらが正しいかではなく、どの分野の文章を書いているかで決まる、というのがこの言葉の性質です。
NHKは2022年に「使い分ける」と決めた
ここが、他の解説ではほとんど触れられていない部分です。
NHKには放送用語委員会という、放送で使うことばを決める会議があります。
2022年10月7日の第1461回で、「リポート〜レポート」の扱いが議題に上がりました。
決定の内容は次のとおりです。
21 「リポート~レポート」〈決定〉
放送関連は「リポート」,学校での提出物関連は「レポート」と使い分ける。
出典:NHK放送文化研究所「語形のゆれ・表記・意味の解釈が分かれる語の扱いについて」第1461回放送用語委員会(2022年10月7日開催/2023年3月1日公開)/2026年8月23日確認
それまでは「レポート」が誤りだった
同じ資料には、この決定より前にどう扱われていたかも記載されています。
- 『日本語発音アクセント辞典』… 〇リポート
- 『ことばのハンドブック』… 〇リポート ×レポート
「×レポート」と明記されていた、という点が重要です。
放送の現場では、かつて「レポート」は使ってはいけない形とされていました。
それが2022年の決定で、学校の提出物については「レポート」を認める方向へ変わりました。
「レポートは誤り」と説明している古い記事が残っていますが、その前提はすでに更新されています。
全国調査では「レポート」が約9割
NHKがこの決定を出した背景には、実際の調査データがあります。
2021年2月に実施された全国調査で、次の質問がされました。
「学校の授業で【リポート/レポート】を提出する。」
回答の内訳はこうなっています。
- 「リポート」と言う(レポートとは言わない)… 5%
- 「レポート」と言う(リポートとは言わない)… 74%
- 両方言うが、どちらかといえば「リポート」… 3%
- 両方言うが、どちらかといえば「レポート」… 15%
「レポート」寄りの回答が合計89%。
学校の提出物という場面に限れば、慣用は「レポート」でほぼ固まっているということです。
放送用語の決定が変わったのは、この実態に合わせたからだと読み取れます。
なぜ2つの表記が生まれたのか
英語の report の最初の音は、日本語の「レ」とも「リ」とも少しずれています。
どちらで写しても、原音そのままにはなりません。
放送・報道の分野が「リポート」を選んできたのは、原音により近いと考えられたからです。
一方で日常語としては「レポート」のほうが早く広まりました。
結果として、同じ語が分野ごとに違う形で定着するという状態が生まれました。
同じことは他の外来語でも起きている
先ほどのNHKの資料には、同じ会議で扱われた他の語も載っています。
- サステイナブル ~ サステナブル
- メインテナンス ~ メンテナンス
- ステインレス ~ ステンレス
- コンテイナー ~ コンテナ
いずれも原音に忠実な形と、日本語として言いやすい形が並んでいます。
資料では、日本語では「コンテイナー」ではなく「コンテナ」が広く使われている例を挙げ、
「サステナブル」という語形が流通しているのもおかしなことではないという意見が出たことが記されています。
つまり原音に近いほうが必ず勝つわけではない、ということです。
内閣告示が想定していた「分野ごとの慣用」の実例
外来語のカタカナ表記には、内閣告示「外来語の表記」という国の基準があります。
その「留意事項その1」には、次のように書かれています。
「ハンカチ」と「ハンケチ」,「グローブ」と「グラブ」のように,語形にゆれのあるものについて,その語形をどちらかに決めようとはしていない。
語形やその書き表し方については,慣用が定まっているものはそれによる。分野によって異なる慣用が定まっている場合には,それぞれの慣用によって差し支えない。
出典:文化庁「外来語の表記」留意事項その1(原則的な事項)/2026年8月23日確認
「リポート/レポート」は、この後半部分がそのまま当てはまる例です。
「ベッド/ベット」や「バッグ/バック」では、慣用が一方に完全に固まっていました。
だから片方が誤りになります。
ところが「リポート/レポート」は分野ごとに別々の慣用が成立しているため、
告示の言うとおり「それぞれの慣用によって差し支えない」となります。
- ベッド/バッグ … 慣用が一方に固まっている → 片方が誤り
- リポート/レポート … 慣用が分野ごとに分かれている → どちらも正しい
同じ「カタカナの表記ゆれ」でも、種類が違うのです。
場面別・どちらを使うか
迷ったときの目安をまとめます。
- 大学・学校の課題 … レポート
- ビジネス文書、月報・調査報告 … レポート
- テレビ・ラジオの中継や取材 … リポート
- 新聞・放送の原稿 … リポート(各社の用語ルールに従う)
- 迷ったとき、一般向けの文章 … レポート
一般向けの文章で迷ったら「レポート」を選んでおけば、読み手に引っかかりません。
全国調査で9割近くが選んだ形だからです。
「リポーター」と「レポーター」はどうなのか
人を指す「リポーター/レポーター」については、まだ結論が出ていません。
先ほどのNHKの資料には、こう記されています。
なお「リポーター」については,現行のままとしつつ,今後も検討を続ける。
つまり放送では引き続き「リポーター」ですが、確定ではなく継続審議ということです。
一方、日常語としては「レポーター」もよく使われます。
「リポート/レポート」が分野で分かれたのと同じ道をたどる可能性があります。
この項目は、今後変わりうる部分です。
放送関係の文章を書く場合は、最新の用語ルールを確認してください。
よくある質問
大学のレポートを「リポート」と書いたら減点されますか
表記を理由に減点されることは、まずありません。
どちらも正しい表記だからです。
ただし課題の指示や配布資料が「レポート」なら、そちらに合わせるのが自然です。
「レポート」は誤りだと書いてある記事を見ました
放送分野の古い基準に基づく説明です。
NHKの『ことばのハンドブック』では、かつて「〇リポート ×レポート」とされていました。
2022年の決定で、学校の提出物については「レポート」を使い分ける形に改められています。
新聞はどちらを使っていますか
報道の分野では「リポート」が使われる傾向があります。
ただし表記ルールは各社の用語集で定められており、社によって扱いが異なる場合があります。
投稿や寄稿をする際は、その媒体の表記に合わせてください。
意味に違いはありますか
ありません。
辞書でも「リポート」は「レポート」を参照する形で載っており、同じ語の別表記として扱われています。
英語に近いのはどちらですか
原音により近いとされるのは「リポート」です。
ただし原音に近いほうが日本語として定着するとは限りません。
「コンテイナー」ではなく「コンテナ」が広まったのと同じです。
まとめ
「リポート」と「レポート」に意味の違いはありません。
どちらも英語の report を写した同じ言葉です。
違うのは分野です。
NHKは2022年10月の放送用語委員会で、「放送関連はリポート、学校での提出物関連はレポートと使い分ける」と決定しました。
それ以前は「〇リポート ×レポート」とされていたので、方針が変わった言葉だということになります。
背景には、2021年の全国調査で学校の提出物については「レポート」寄りの回答が約9割だったという実態があります。
これは、内閣告示「外来語の表記」が言う「分野によって異なる慣用が定まっている場合には、それぞれの慣用によって差し支えない」がそのまま当てはまる例です。
「ベッド/ベット」のように片方が誤りになる表記ゆれとは、種類が違います。
一般向けの文章で迷ったら、「レポート」を選べば読み手に引っかかりません。
慣用が一方に固まっている表記ゆれについては、「ベッド」と「ベット」はどっちが正しい?と「バッグ」と「バック」はどっちが正しい?を、
どちらが定着するかで揺れている例については「コミュニケーション」と「コミニュケーション」どっちが正しい?もあわせてご覧ください。
※本記事のNHKに関する記述は「語形のゆれ・表記・意味の解釈が分かれる語の扱いについて」(第1461回放送用語委員会・2022年10月7日開催/2023年3月1日公開)を、内閣告示に関する記述は文化庁「外来語の表記」留意事項その1を、いずれも2026年8月23日に確認したものです。
カタカナ表記のゆれとしては、「グラウンド」と「グランド」はどっちが正しい?グランドスタンドが例外になる理由もあわせてご覧ください。
同じ音で意味が違う言葉としては、「科学」と「化学」の違いは?理系が「ばけがく」と読む理由もあわせてご覧ください。
同じ言葉に複数の表記がある例としては、「一人ひとり」「一人一人」「ひとりひとり」はどれが正しい?公用文の基準を確かめたもあわせてご覧ください。
意味の近い言葉の使い分けについては、「調整」と「調節」の違いは?もう一つの「調製」まで整理もあわせてご覧ください。
分野の慣用として表記が決まった例としては、「ウイルス」と「ウィルス」はどっちが正しい?1965年に学会が統一を求めたもあわせてご覧ください。

